横河電機株式会社
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世界初の急速充電対応型電池推進船「らいちょう」の電気系統を司るFA-M3

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概要

近年、資源制約や環境問題への関心の高まりを背景に、世界規模で注目を集めている電気自動車。船舶においても、これまで主に使用されてきたディーゼルエンジンから電池を動力源とする電池推進システムへの転換が徐々に進みつつあります。

東京海洋大学は、平成22年に世界初の急速充電対応型電池推進船「らいちょうⅠ」を建造しました。この電池推進船は、リチウムイオン電池・推進モータを動力とすることで、 「低騒音・低振動」、「航行中の排気ガスや二酸化炭素を出さない」、「高出力かつ短時間の充電時間」などを特徴としています。

この「らいちょう」の電気系統のコントロールを行っているのが、「FA-M3」です。
今回は、船舶の省エネ環境活動に貢献するFA-M3をご紹介します。

東京海洋大学
 
 国立大学法人 東京海洋大学
 

 

環境にやさしい近未来の船「電池推進船」とは

「電池推進船」とは、搭載している電池に蓄えられているエネルギーを用いて動く船です。エンジンの代わりにモータと制御装置を搭載し、軽油の代わりに電気を使い航走します。そのため、航行中の排気ガスやCO2の排出がなく、航行水域の環境保全に大きな効果があります。また騒音や振動も殆ど生じないため人にも優しいのです。蓄電池はリチウムイオン2次電池を用います。

「らいちょう」は、低環境モーダルシフトの考えからスタートしました。急速充電対応型電池推進船の第1船「らいちょうⅠ」、ウォータージェット推進機を搭載した第2船「らいちょうS」、そして第3船となる次世代水上交通システムの研究実験船「らいちょうN」。らいちょうNは燃料電池などとリチウムイオン2次電池のハイブリッド型で遠隔操船システム等を特徴とする実用化レベルの電池推進船です。
すべての「らいちょう」にFA-M3が採用されています。

実験船第3船「らいちょうN」
 
実験船第3船「らいちょうN」 

 

「らいちょうN」に乗船

らいちょうNは、これまでの急速充電対応型電池推進船の研究成果をもとに、次世代水上交通システムの研究実験船として建造されました。現在は国内で初めてとなる商用燃料電池客船の実用化に向けて新しい規則の確定などのために、水素燃料電池を搭載し様々な実証試験を行っています。

らいちょうNの概要は、全長14m、全幅3.5m、全深さ1.5m、電動機推進機連続定格出力90kW(45kW x 2基)、最大出力160kW、急速充電プロトコルCHAdeMOに準拠しており、定員は通常12名、最大40名まで乗船できます。
心地よい風と満点の青空の中、東京海洋大学越中島キャンパスポンドを出港し、豊洲新市場、建設中のオリンピック選手村、晴海ふ頭、レインボーブリッジ、勝鬨橋、東京スカイツリーと東京の各名所を巡る1時間強の船旅でした。乗船してまず驚いたのは、音の静かさです。外にいても普通の声量で会話ができました。そして軽油を使っていないため、油臭さが全くありません。

コックピットはタッチパネルになっており、電池残量やモータ回転数、電圧値、電流値、海路などをモニタできます。モータは想像以上に小さく、エンジンの約1/6ほどの大きさでした。

コックピット

コックピット

船底に設置されたモータ

船底に設置されたモータ

 

世界初となる急速充電対応型

リチウムイオン2次電池は、バッテリールームに搭載されていました。バッテリーモジュール(セルを2並列12直列で構成)を12個直列につなぎ、それを1パックとして、11パックを並列に接続して約145kWhの容量を確保しています。重量は約1.8トンにも及びます。

船は約9.5ノット(時速17.6km)の速さ(約70kWhの出力)で軽快に進みました。145kWhの容量のため、この船速であれば約2時間走り続けられる計算です。今回は1時間超の航行で、電池残量は80%→40%になっていました。船速と出力の関係は3乗則なので船速を少し落とすだけで航行時間は大きく伸びます。充電の際は、急速充電器(CHAdeMO対応)の最大出力は50kWのため、ゼロからフル充電すると、約3時間かかることになります。

充電は電気自動車で使用する陸上の急速充電器と同じものを使います。
急速充電器と船はCAN通信しており、プラグを船に装着すると、船内のFA-M3が急速充電器へ指令を出し、船への充電が始まります。

バッテリールームに収納されたリチウムイオン2次電池

バッテリールームに収納された
リチウムイオン2次電池

急速充電器

急速充電器

充電中の様子

充電中の様子

 

電池システムを制御するFA-M3

リチウムイオン2次電池は、セルと呼ばれる単電池すべてを監視・制御しなければなりません。
らいちょうNで使用しているバッテリーモジュールは1個につき24個のセルで構成され、それぞれCMUと呼ばれるセルモニタリングユニットを搭載し各セルを管理しています。このバッテリーモジュールを12個直列にした電池パックにはBMUと呼ばれるバッテリーマネージメントユニットが準備され、バッテリーモジュールを介して全セルを監視し、SOC(充電率)推定や各セルの電圧のバラつきを整えるセルバランス機能など、安全に電池が機能することをサポートしています。

このBMUを制御しているのがFA-M3です。らいちょうNが搭載している11個の電池パックの各BMUとCAN通信で接続し、充放電時の過放電、過充電などの制御を行っています。セルの総数は3,168個にも及びますが、それら全部のセルを監視し、船舶の運航に必要なエネルギーマネージメントを行っています。

 

システム構成

「らいちょうN」のシステム構成図

「らいちょうN」のシステム構成図

 

CAN通信を実現したFA-M3

電池推進システムは、4つのElectric Control Unit(ECU:電子制御ユニット)で構成されています。
右舷用と左舷用にそれぞれ推進システムを制御する「E-ECU」、操船や航海計器などを管理・制御する「N-ECU」、水素燃料電池発電システムを制御する「F-ECU」があります。

これらECUにはそれぞれFA-M3がコントローラとして入っています。
ECU同士はFL-net を用い互いに連携して動いています。電池システム、急速充電システム、モータインバータシステム、操舵システム等主要な機器とECU間はCAN通信で接続し、X-by-wireとして操作でき自動化等を可能にしています。また、電圧、電流、流量、圧力、温度などの測定は信号変換器にて4-20mA でFA-M3に接続しています。それらをコックピットのモニタに表示させたり、タッチパネルから操作しています。
また、シーケンス制御だけでなく、いろいろな航海計器からのデータを収集し、計算するためにe-RT3のLinux CPUも使用しています。

ECUを司るFA-M3

ECUを司るFA-M3

タッチパネルでの監視・操作

タッチパネルでの監視・操作

 

国内初の商用船として実用化

平成26年、沖縄県石垣市川平湾遊覧に日本初の電気推進船の商用船「ちゅらら」が運航を開始しました。「ちゅらら」は「らいちょうS」を前身としたリチウムイオン電池推進船で、蓄電池容量26kWhで旅客定員は22名です。運行時間は約30分、1回約30分の充電で4回の運航が可能です。

 

一度もメンテナンスしたことがない

商用船「ちゅらら」にもFA-M3が採用されています。
沖縄県は高温多湿で周囲を海に囲まれているため、大気中の塩分濃度が東京よりも約4倍高く、気温も高い環境です。そのため、沖縄県の海上で使用する機器には耐久性が求められます。このような環境下において、FA-M3はこれまで一度もメンテナンスすることなく、安全な航行を支えています。

 

実用化を果たした電池推進グラスボート「ちゅらら」
 
実用化を果たした電池推進船「ちゅらら」
 
川平マリンサービス
http://www.kabiramarine.jp/

 

今後の展望

最後に、今後の展望について、大出教授に伺いました。
「やはり『脱・石油』ですね。石油を使わない船の開発を目指してい行きたい。そして、船舶の世界も若者が少ないことが課題としてあるので、自動操船だったり、油臭くないきれいな船だったり、よりよい環境で働けるように、船の開発を進めていきたい。」

資源・エネルギー問題や環境問題を背景にスタートした電池推進船の研究は着実に進み、今や実用化も果たしています。
FA-M3は制御の役割で、環境にやさしい電池推進船を通して海からの省エネ活動に貢献しています。

大出 剛教授
 
大出 剛教授

 

東京海洋大学概要

住所

越中島キャンパス【海洋工学部】 〒135-8533 東京都江東区越中島2-1-6
品川キャンパス【海洋科学部】 〒108-8477 東京都港区港南4-5-7

設立

1875年設立
2003年10月1日 東京商船大学と東京水産大学が統合、東京海洋大学を設置

URL

http://www.e.kaiyodai.ac.jp/index.html

 

 

 

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